乾癬の疾患啓発プロジェクト

ARTICLE

アートで伝える
新しい乾癬疾患啓発イベント
『ふれられなかったにんげんもよう展』
レポート/前編

治療法の選択肢が広がっていることを
知ってほしい。

道端アンジェリカさん × 医師・五十嵐敦之先生
× INSPIRE JAPAN WPD 乾癬啓発普及協会・山下織江さん

道端アンジェリカさん

「乾癬は、“感染”しない(=非感染)」という正しい認識を深め、患者さんが悲観せずに生活できる社会を目指すべく、2018年10月に立ち上がった乾癬の疾患啓発プロジェクト、「HIKANSEN project(ヒカンセン プロジェクト)」。

去る2018年10月5日(金)〜7日(日)の3日間、このプロジェクトのキックオフ・イベントとして、乾癬の認知向上を目的に、乾癬患者さんの悩みをアートで映し出す『ふれられなかったにんげんもよう展』が、東京ミッドタウン(東京都・六本木)で行われました。このイベントは、日常生活の何気ないシーンでも周囲の目を気にしてネガティブに捉えてしまう乾癬患者さんの心の声を、アートの手法を使って“見える化”した新しい試みです。

イベント初日のオープニングセレモニーと最終日のトークセッションには、道端アンジェリカさんが、「HIKANSEN project」のアンバサダーとして登壇。それぞれ行われたトークセッションの様子を前編・後編に分けてお伝えします。

日常生活の中に隠れた
乾癬患者さんの悩みや不安

10月5日(金)のオープニングセレモニーでは、「告白で変わった“ふれられなかったにんげんもよう”」をテーマに、3名のゲストによるトークセッションが行われました。

10月5日(金)のオープニングセレモニーでは、「告白で変わった“ふれられなかったにんげんもよう”」をテーマに、3名のゲストによるトークセッションが行われました。

前半は、長年にわたり乾癬の診療・研究に従事するNTT東日本関東病院皮膚科部長の五十嵐敦之先生、ご自身も乾癬患者である一般社団法人 INSPIRE JAPAN WPD 乾癬啓発普及協会(以下、INSPIRE)の山下織江さんが登壇。今回のアートイベントの感想や、過去から現在にいたる乾癬との向き合い方、治療法の進展について語られました。後半からは道端アンジェリカさんを迎え、2017年5月にSNSで乾癬であることを公表した経緯や、その後の心境の変化を語っていただきました。

一般社団法人 INSPIRE JAPAN WPD 乾癬啓発普及協会の山下織江さん

一般社団法人 INSPIRE JAPAN WPD 乾癬啓発普及協会の
山下織江さん

—— 今回の展示をご覧になった第一印象を聞かせてください。

山下さんこんなにおしゃれな公共の場で、乾癬について語る日が来るなんて夢にも思っていなかったので、とてもうれしいです。乾癬とアートを結びつけたのも初めての試みですが、私たち患者の心の悩みをよく映し出している展示になっていて感動しました。

五十嵐先生私もこの展示を拝見して、患者さんの日常生活の悩みの深さをあらためて知らされた思いがしました。長年皮膚科医としても啓発活動をやってきたわけですが、なかなか一般の方々に浸透していかないもどかしさがありました。今日はこんなに大勢の方々にお越しいただき、感無量です。

—— 展示では、乾癬患者さんが対人コミュニケーションで避けられたり、避けたり、といった経験を元にした4つのシーン(電車・会議室・美容室・寝室)が展示されていますが、山下さんはご自身が経験されたことはありますか?

山下さんはい。どれもあります。私は今でも頭皮に乾癬があって、以前、症状がひどかった頃は“鱗屑(りんせつ)”と呼ばれる銀白色の細かいかさぶたのようなものが、フケのように剥がれ落ちていました。なので、展示会場で〈美容室〉のシーンを見たとき、その当時の辛かったことを思い出しましたね。「美容師さんにいつどのタイミングで乾癬の症状があることを伝えようか」「乾癬が目立たないスタイルってどんな風にしたらいいんだろう」とか、そんなことばかり考えていて、とてもヘアスタイルを前向きに楽しむ気分にはなれませんでした。

—— 五十嵐先生は患者さんのこういった声に触れることも多いのでしょうか?

五十嵐先生そうですね。対人関係で悩んでいる方は非常に多いです。以前、私が乾癬患者さんに話の流れで何気なく握手を求めたら、手を出すのをためらわれたことがありました。その方は手のひらに症状が出ている方で。そのくらい患者さんは日常生活のさまざまなシーンで気にされているんだなと実感しました。

NTT東日本関東病院皮膚科部長の五十嵐敦之先生

NTT東日本関東病院皮膚科部長の五十嵐敦之先生

—— 現在、乾癬患者さんはどのくらいいるのでしょうか?

五十嵐先生日本における乾癬患者さんの数は、現在約50〜60万人。割合でいうと全人口の0.4〜0.5%程度。欧米諸国に比べると少ないですが、ここ数年、日本でも乾癬の患者数が増えている傾向にあります。男女比は2:1。男性はだいたい中年層が多いのですが、女性は20代が1つのピークとしてあります。これから結婚や出産などを控えている世代なので、そういったところで治療について悩んでいる女性の患者さんもいらっしゃいますね。

—— 若い女性が乾癬を発症するケースも増えているということですが、2017年5月、道端アンジェリカさんが乾癬であることをSNSで公表し、大きな反響を呼びました。山下さんはどんな風に受け取りましたか?

山下さんアンジェリカさんの話題は患者会の間でも一気に広がり、問い合わせも今までにないほど増えました。INSPIREとして全国各地で啓発活動をする中でも、「アンジェリカさんの話題で乾癬を知った」という方が多くて、本当にアンジェリカさんのおかげで乾癬の認知度が向上したことを実感しています。個人的にも、アンジェリカさんのように華やかな職業の方は私とは全然違う世界で生きている方だと思っていましたが、共感できる同じ乾癬の悩みを持っていらっしゃることを知り、1人じゃないんだなって、勇気をもらいました。

アンジェリカさんの告白で広がった、
乾癬の認知度

モデルの道端アンジェリカさん

モデルの道端アンジェリカさん

山下さんや患者会の皆さんをはじめ、乾癬に悩む多くの人たちを勇気づけた道端アンジェリカさんの告白。しかし、乾癬を発症した当時は、親しい友人や仕事仲間にも乾癬であることを打ち明けられず、周囲に対して疑心暗鬼になり、1人で暗く落ち込む辛い日々を過ごしていたと話します。

—— 5年ほど前に乾癬を発症したということですが、発症前からこの病気のことを知っていましたか?

アンジェリカさん知らなかったです。まったく。乾癬という名前すら知りませんでした。

—— では、乾癬を知ったのは、病院で診断を受けてから?

アンジェリカさんいえ、私は病院に行く前に、たまたま海外のテレビ番組で大好きなタレントさんが乾癬だと言っていたのを見て知りました。「自分の症状と似てる!」と思い、すぐ調べて、その後、病院で診断を受けました。

—— この会場で流れているインタビュー動画の中でもありましたが、発症当時は周囲の視線が気になって乾癬であることを隠していたとのことですが、やはり、なかなか言えないという気持ちが強かったのでしょうか?

アンジェリカさん近い人にほど言えなかったですね。今はまったく気にしていないけど、当時はやっぱり気持ち悪いと思われたくなかったし。ヘアメイクさんには「ちょっとブリーチして頭皮が傷んでる」とか、スタイリストさんには「加圧トレーニングでアザっぽくなってる」とか、もう何でもいいからとにかく嘘をついて、隠して隠して隠して……。

—— そうした悩みや苦悩を抱えた中で、2017年5月にSNSで公表された時の心境を教えてください。

アンジェリカさんまわりに嘘をついて生活し続けることに疲れていたとき、さらに追い打ちをかけるように心ない言葉を言われて、悔しい気持ちになったんです。それで、もう本当のことを言って楽になりたいなって。その時期はかなり精神的に辛かったので、そこから自分自身を解放させてあげたかったんだと思います。

—— 山下さんはそのSNSを見て、お手紙を送られたと聞きました。

山下さんはい。そうなんです。アンジェリカさんのSNSを見て、非常に勇気のある女性だなと思いました。私は大学時代に気象予報士の資格を取り、それがきっかけでテレビ局でお天気キャスターのアルバイトをしていたことがありました。でも、「乾癬の自分がテレビに出ていいのだろうか」といつも悩んでいて、誰にも相談できず、ストレスで乾癬がさらに悪化して……。結局、その仕事を続けていく勇気と自信がありませんでした。人に見られる仕事って華やかだけど、とてもストレスが多いと思うんです。アンジェリカさんは乾癬であることを告白して、それを乗り越えて、今でも立派に活躍されているので、本当にすごいなと思います。

アンジェリカさんふふふ。うれしいです。

山下さん我々INSPIREが開催した東京タワーでの乾癬疾患啓発イベントにもアンジェリカさんがサプライズで来てくださって。みんな驚いてパニックになっちゃって(笑)。私も感動で涙が止まりませんでした。

ライフスタイルに合った
正しい治療法の選択

乾癬の認知度が少しずつ高まっている一方で、患者さんの中には、治療にさまざまな選択肢があることを知らない人がまだまだ多いという現状があります。五十嵐先生によると、ここ数年、毎年のように乾癬の新しい治療法が生まれ、患者さん1人ひとりの症状やライフスタイルによって選べるように進歩しているといいます。

—— 現在の乾癬の治療法について少し教えてください。

五十嵐先生私が医師になって約30年ですが、当時乾癬の治療はステロイドの塗り薬くらいしかなかったので、今と比べると、治療に困っていた時代が嘘のようです。治療法を大きく分けると、塗り薬、光線(紫外線)療法、飲み薬(内服療法)、生物学的製剤と呼ばれる注射療法があります。いずれの治療法もこの10年足らずで新しい薬剤や機器が開発され、患者さんの希望やライフスタイルにあった治療を選択できるようになってきました。

—— 治療法の選択肢があることを患者さんや周囲の方々に広く周知していくことが大事ですね。

山下さんそうですね。先生のお話の通り、現在は治療の選択肢が増えて、ほぼ症状が出ないに等しい寛解(病気の症状が一時的、あるいは継続的にほぼ消失した状態)に近い状態にまで近づける時代になりました。一方で、正しい知識や情報とつながることのできていない患者さんもたくさんいます。例えば、生物学的製剤や新しい飲み薬についてまったく知らない方や、たとえ知っていても副作用が強いかもしれないと思い込んでなかなか次の治療のステップに踏み切れないという話も聞きます。これからは患者さんが治療方針の決定に積極的に関わっていく時代です。なので、いかに正しい情報を得るか、ということが非常に大切になってくると思います。

五十嵐先生やはり乾癬は見た目に症状が出る疾患で、その上、頭皮、膝、爪などの外から見て目立つ部位に出やすい。女性は特にボディイメージを気にされるので、ストレスもかなり大きいと思います。また、先ほど申し上げた通り、20歳前後の若い女性が発症した場合は結婚、妊娠、出産に際し、副作用がある薬や、妊娠前後に絶対使ってはいけない薬もあるので、そういった人生設計を踏まえた治療法を一緒に選択するということに、我々医師側も注力しています。

アンジェリカさん私の場合、実は妊娠して乾癬の症状が落ち着いたので、妊娠中や産後は比較的ストレスなく過ごせました(2018年7月にご出産)。でもやっぱり不安はありましたね。子どもに栄養がいく分、自分に足りなくなると良くないと思ったので、暴飲暴食を避けて、なるべくバランスの良い食事を心がけていました。

1人じゃない。そう思うことから
始まる新しい日々

トークセッションの最後は、ゲスト3人それぞれから今回の『ふれられなかったにんげんもよう展』を通して伝えたいメッセージが語られました。

五十嵐先生医療用語でQOL(Quality of Life)、つまり患者さんの「生活の質」ですね。乾癬患者さんは精神的にも肉体的にもほかの疾患(関節炎や慢性肺疾患、心筋梗塞、癌など)と比べてQOLがかなり低いことがわかっています。そういった意味でも、一般の方々が正しく乾癬について理解することによって、患者さんは前向きに治療に向かっていけると思います。この機会がたくさんの方に乾癬の理解を深めていただくきっかけになればと思います。

山下さん乾癬患者さん1人ひとりは唯一無二の存在で、それぞれの夢や希望、乾癬と向き合ってきたストーリーがあります。私がそんな患者さんたちに伝えたいことは、「乾癬を理由に何かを諦めないで欲しい」ということです。という私も、昔は本気で自分のことを気にかけてくれる人なんて誰もいないと、1人で暗く落ち込んでいた時期もありました。

アンジェリカさん今回のようなイベントを通して、いろんな方に乾癬の症状や私たち患者側の悩み、そして「乾癬は感染しない」ということを理解してもらいたいです。そうすれば、私たちは普段気にしていたこともオープンになれるし、前向きに、楽しく日常生活ができます。きっと、ファッションとかももっと楽しめる患者さんが増えると思う。

乾癬で悩んでいる方には、「1人じゃない」ということを知ってほしい。私も症状が悪化した時は、私みたいな人は誰もいないと思い込んで、とても辛かった。でも告白して、たくさんの患者さんから「私もです、僕もです」という声をいただいて、本当に1人じゃないんだって。それまで苦しんでいた自分がバカみたいに思えました。周りの人に相談して、前向きな心で乾癬と向き合っていって欲しい。そういうことをアンバサダーとしてこれからも積極的に伝えていきたいと思います。