総合監修:医療法人桜仁会 いがらし皮膚科東五反田 院長 五十嵐 敦之 先生

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乾癬性関節炎(関節症性乾癬)について

乾癬の皮膚症状に加えて、手足の関節の腫れや痛みを伴う場合は、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)が疑われます。乾癬性関節炎の症状が現れるのは、指先・膝・肩などさまざまで、発現時期も患者さんによって異なります。乾癬性関節炎が発症する割合、発症のメカニズム、具体的な治療法を紹介します。

乾癬性関節炎の基本情報

乾癬性関節炎(関節症性乾癬)はすべての乾癬患者さんが発症するわけではありません。
乾癬患者さんのおよそ7人に1人が発症するとされています。1)
見てみると、男性のほうが女性に比べ1.9倍ほど多いという報告があります。 発症年齢は10代から70代と幅広く、なかでも30代~50代の発症が最も多いとされています。2)

皮膚症状が広範囲である、爪に乾癬症状があるといった場合は、乾癬性関節炎を発症する確率が高くなると考えられています。乾癬性関節炎の患者さんの約9割に爪の症状が見られるとの報告もあります。3),4)

乾癬性関節炎発症のタイミングとして、約8割の乾癬性関節炎の患者さんが、皮膚症状が出た後に関節炎を発症する場合が多いです。2)
上記のように、皮膚症状が広範囲である、爪症状があるという患者さんは、定期的に関節の腫れやこわばりをチェックすることで、早期発見、適切な治療へとつながります。

→具体的なチェック方法は、乾癬性関節炎のチェックリストをご活用ください

乾癬性関節炎の症状

乾癬性関節炎の症状は、手指の関節、足裏の腱やアキレス腱、脊椎などに見られ、その現れ方もさまざまです。ここでは、具体的な症状を紹介します。

付着部炎(ふちゃくぶえん)

乾癬性関節炎の約半数の患者さんが発症すると言われている症状です。3) 靭帯や腱が骨に付着する部分に生じる炎症で、痛みや腫れを伴います。足裏の腱やアキレス腱の付着部に症状が起こることが多いのですが、足だけではなく全身のあらゆる部位で起こる可能性があります。3) 膝や股関節、肩、肘にも現れることがあり、乾癬性関節炎の初期症状としてよく見られます。

付着部炎(ふちゃくぶえん)のイラスト

指趾炎(ししえん)

乾癬性関節炎患者さんの約2~3割の方が発症する症状です。3),5) 手足の指全体が腫れ、ソーセージのような見た目になります。炎症が長く続くと関節の破壊が起こることもあります。

指趾炎(ししえん)のイラスト

末梢関節炎(まっしょうかんせつえん)

手足の指の第一関節に最も多く現れ、腫れや痛みを伴います。関節リウマチにも同じような症状が見られますが、乾癬性関節炎の症状は一般的に左右非対称に現れます。関節炎が長く続くと関節の破壊が起こり、関節の変形をきたします。

体軸関節炎(たいじくかんせつえん)のイラスト

体軸関節炎(たいじくかんせつえん)

骨盤の関節や脊椎に炎症が起こり、背中や首、腰にこわばりや痛みが現れます。
こわばりや痛みなどの症状が、朝起きたときに強く現れるものの日中に体を動かすと軽くなり、夜寝ているときにまた強くなるというように、1日の中で症状が変化することもあります。3)

体軸関節炎(たいじくかんせつえん)のイラスト

他の病気でもこれらと同じような症状はあり、乾癬性関節炎以外の病気の可能性もあります。
→乾癬性関節炎と似ている疾患やその特徴については「指関節の痛み・腫れが気になるときは?」をご参照ください。

症状の進行には個人差がありますが、発症から治療までの期間が長くなるほど、重症化リスクは高まります。「体の調子がいつもと違う」と感じたら主治医に相談しましょう。また、関節に腫れやこわばりがないか、チェックする習慣をつけましょう。気になる症状が現れた場合は、すみやかに主治医に相談することで、適切な検査・治療の受診につながります。

乾癬性関節炎の原因・メカニズム

乾癬性関節炎は、遺伝的要因や環境要因により免疫システムに異常(自己免疫反応)が生じ、炎症性サイトカイン(炎症に関わるタンパク質)が関節周辺に過剰に生成されて、さまざまな症状を引き起こすと考えられていますが、発症のメカニズムは明らかになっていません。3)
→詳細は「乾癬の原因について」をご参照ください。

乾癬性関節炎の検査・診断

乾癬性関節炎は、血液検査や画像検査、患者さんへの問診を行い、総合的に判断されます。
具体的にどのような検査・診断が行われるかを紹介します。

■問診 3)

問診では、次のようなことが確認されます。普段から、症状や気になることをメモにしておくことで具体的な症状を相談できるようになります。

  • □乾癬の皮疹があるか、もしくは過去にあったか
  • □爪に乾癬の症状があるか
  • □関節の腫れやこわばり、痛みがあるか
  • □付着部炎はあるか(医師が付着部を押して確認)
  • □指趾炎があるか(医師が手足の指を確認)
  • □背中の痛みや、それに伴う生活への影響。夜目が覚める、運動すると和らぐなど

■血液検査 3),6)

血液検査では、血中内の成分を調べ、検査値から、乾癬性関節炎か類似疾患である関節リウマチかの判断をします。

  • ・RF(リウマトイド因子)
  • ・抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体
  • ・⾚⾎球沈降速度
  • ・CRP(C反応性タンパク)
  • ・MMP-3(マトリックスメタロプロテアーゼ-3)

■画像検査 3)

画像検査では、主にX線検査、超音波検査、MRI検査が行われます。

超音波検査 付着部炎(乾癬性関節炎の初期症状)や関節炎を調べるのに適しており、主に手足の症状を検査します。
MRI検査 脊柱炎症もふくめた全身の炎症の程度・骨や関節の破壊・変形について検査が可能で、超音波検査同様初期の検査に役立ちます。
X線検査 X線検査は最もよく用いられる画像検査です。骨の破壊、新たな骨の形成、関節の変形がわかります。

これらの検査を経て、乾癬性関節炎の診断を行います。
場合によっては、皮膚科だけではなくリウマチ科への受診が必要になることもありますが、早期に発見し、適切な治療を行なうことで、関節の変形を防ぐことができます。

乾癬性関節炎の治療法3)

乾癬性関節炎(関節症性乾癬)と診断されたら、皮膚症状に対する治療に加えて、関節症状に対する治療を行います。関節症状の治療は薬物療法が中心で、炎症を抑える・免疫異常を抑える・サイトカインの過剰なはたらきを抑える等の目的に併せて治療薬が選択されます。
→皮膚症状の具体的な治療方法については「乾癬の治療について」をご参照ください。

■薬物治療 5)

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):炎症の抑制、痛みの軽減が期待できます。非ステロイド性抗炎症薬を3~6ヵ月間使用しても改善が見られない場合や症状が重くなった場合には他の治療薬を用いることがあります。
  • 免疫抑制薬:免疫の異常を抑制することで、腫れや痛みの改善が期待できます。
  • 生物学的製剤(TNFα阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-17A阻害薬):痛みや腫れの原因となるタンパク質(サイトカイン)に直接作用し、その働きを抑えることで、腫れや痛みの改善、関節破壊の抑制が期待できます。注射薬と点滴薬があります。

乾癬性関節炎の治療は、症状を抑えて日常生活に影響を与えないようにすることを目的としています。主治医の指示に従って治療を継続するようにしましょう。自己判断で薬を減らしたりやめたりしてはいけません。

乾癬性関節炎が進行すると、関節が変形し、日常生活へ影響を及ぼします。
症状の進行を防ぐためにも、適切な治療を受けることが重要です。
同じような症状が見られる別の病気と鑑別するためにも、症状に気づいたら専門医による診断を受けてください。
日頃から自分の体調の変化をチェックすること、少しでも気になることがあれば、すぐに主治医に相談することが大切です。

参考

  • 1)Ohara Y, et al. J Rheumatol. 2015; 42(8): 1439-1442
  • 2)Yamamoto T, et al.:J Dermatol. 2016;43(10):1193-1196.
  • 3)日本皮膚科学会乾癬性関節炎診療ガイドライン作成委員会「乾癬性関節炎診療ガイドライン2019」(最終閲覧日2023年10月25日) (https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/PsAgl2019.pdf)
  • 4)Ritchlin CT, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 957-970
  • 5)Coates LC, et al.: Nat Rev Rheumatol. 2022; 18: 465-479
  • 6)公益財団法人日本リウマチ財団ホームページリウマチ情報センター「関節リウマチの検査」(最終閲覧日2023年10月25日)
    (https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm400/inspection1.html)

●乾癬性関節炎(関節症性乾癬)のチェックリスト1)

次の15の質問について、ひとつでも思い当たる点があるようでしたら、関節の症状について主治医にご相談ください。

[症状に関して]
  • □ ほぼ1日中、疲れを感じている。
  • □ 関節が痛むことがある。
  • □ 背中が痛むことがある。
  • □ 関節が腫れている。
  • □ 関節が熱をもつことがある。
  • □ 手足の指がソーセージのように腫れている。
  • □ 関節の痛みが他の関節に移ることがある。(例:手首の痛みが数日続いた後、膝が痛くなるなど)
[関節の機能に関して]
  • □ 関節の症状が、仕事に影響を及ぼしている。
  • □ 関節の症状が、身の周りの動作に影響を及ぼしている。(例:着替えや歯磨きなど)
  • □ 時計や指輪を身につけるのに苦労する。
  • □ 車の乗り降りに困難を感じることがある。
  • □ 以前は出来ていた動作ができない。
  • □ 朝起きてから2時間以上、関節のこわばりを感じる。
  • □ 朝が最もつらい時間である。
  • □ 時間帯に関係なく、普通に動けるようになるまで数分かかることがある。

1) Dominguez, P.L., et al.: Arch Dermatol Res. 301(8):573, 2009.より作成

乾癬性関節炎に関しては、こちらのページもご確認ください。
「乾癬の関節の痛みや腫れについて」の項参照)